ここでは主に先天性サイトメガロウイルス感染症について解説します。

ヒトサイトメガロウイルス(以下CMV)感染症は、CMVの初感染、再感染あるいは再活性化によって起こる病態で、感染と感染症は異なることを明確にする必要がある。
このウイルスが感染症を発症するのは主に胎児(一部は先天性CMV 感染症患児として出生)、未熟児、移植後、AIDS患者、先天性免疫不全患者などであるが、免疫学的に正常であっても肝炎や伝染性単核症などを発症する場合があり、注意を要する。

【疫学】

従来、我が国のCMV抗体保有率は欧米諸国に比して高く、乳幼児期にほとんどの人が感染を受けている状態が続いていた。ところが最近、その状況に変化が認められ、妊娠可能年齢の女性におけるCMV抗体保有率は90%台から70%台に減少していることが、いくつかの地域における研究で報告されている。
このことは、乳幼児期に初感染を受けずに成人となり、伝染性単核症や妊娠中の感染により、先天性CMV
感染症患児を出産する頻度が増加することにつながる。抗体陽性の母親から出生した児の経胎盤感染の頻度は0.2~2.2%であるが、妊娠中に初感染を受けた場合の経胎盤感染の頻度は20~40%と報告されている。しかし、そのうち症候性感染児は5~10%である。ただし、新生児期に無症状であっても、難聴や知能障害のような形で発見されることがあり、早期発見が重要である。

感染経路は母乳感染、尿や唾液による水平感染が主経路であり、産道感染、輸血による感染、性行為による感染なども認められている。初感染を受けた乳幼児はほとんどが不顕性感染の形で、その後数年にわたって尿あるいは唾液中にウイルスを排泄する。このことから、保育園などで子供同士の密接な接触によって感染を受けたり、ウイルスを含む尿との接触により感染が成立する。
また、既感染の女性は母乳中にウイルスを排泄しているため、母乳は感染源となる。特に早産児においては、母体から十分量の抗体の移行を受けずに出生に至っているため、初感染から感染症へと発展する可能性が高く、母乳のみならず、既感染者からの輸血にも注意が必要である。

【臨床症状】

妊婦がCMV の初感染、再感染を受けた場合、あるいは再活性化を認めた場合、ウイルスが胎盤を経由して胎児に移行し、この病気を発症する。症状は重篤なものから軽症、無症状まで幅広いが、一般的に初感染の場合に重篤になることが知られている。これは、TORCH 症候群の1 つを構成する重要な先天性感染症である。
先天性CMV感染の児の約10%は出生時に症状がみられる;症状は、低出生体重、黄疸、出血斑、肝脾腫、小頭症、脳内(脳室周囲)石灰化、肝機能異常、血小板減少、点状出血、難聴、脈絡網膜炎、肺炎、DIC、精神運動発達遅滞など多彩かつ重篤で、典型例は巨細胞封入体症と呼ばれている。
ただし、出生時には上記症状の一部のみの場合や、全く無症状で後に難聴や神経学的後遺症を発症する場合があり、早期発見が望まれる。

【病原診断(先天性CMV 感染症の診断)】

2(~3)週間以内の尿からウイルスが分離されると確定される(CMV封入体を調べる尿検査)。臍帯血や新生児血のCMV IgM を診断に用いる(CMVに対する抗体価(母子ともに))こともあるが、陰性である場合もあり、これだけでは不十分である。最近では、抗原血症や分子生物学的手法によるDNA 診断やmRNA 診断が用いられる。

【予防と治療】

先天性または周生期CMV感染症に対する特異的治療法はない。ガンシクロビルは先天性CMV児でウイルスの播種を減らすことがわかっている。ただし,治療を止めるとウイルスはまた播種し始める。したがって,先天性CMV感染児の治療でこの薬が果たす役割は不確実である。

先天性CMV 感染症の予防方法としては、未感染妊婦は乳幼児と密接な接触を避けることなどがあげられる。

脳石灰化(石灰化、頭蓋石灰沈着)※

【定義】脳内のカルシウム沈着。

体内に入ったカルシウムの99%は骨と歯になりますが、残りの1%のカルシウムは、溶けて血液の中に入ります。カルシウムと他のミネラルまたはホルモンとのバランスに影響を及ぼす異常があると、カルシウムは、動脈、腎臓、肺、脳など、体内の他の部位に沈着することがあります。体内のそれらの部位にカルシウムが沈着すると、それらの器官の機能に異常が生じます。